2024/12/26

風が

風が桜の花びらを散らす
春がそれだけ弱まってくる
ひとひらひとひら舞い落ちるたびに
人は見えない時間に吹かれている

光が葡萄の丸い頬をみがく
夏がそれだけ輝きを増す
内に床しい味わいを湛え
人は見えない時間にみがかれている

雨が銀杏の金の葉を落とす
秋がそれだけ透き通ってくる
うすいレースの糸を抜かれて

雪がすべてを真白に包む
冬がそれだけ汚れやすくなる
汚れを包もうと また雪が降る
私は見えない時間に包まれている

(吉野弘 心の四季)


2024/12/04

星から降る金

年老いた王様 この世を嘆き
門を閉じ 塀を高く築いた
王子様に言い聞かせたの
「ここよりほかに良い国はない」と
夜の森で あこがれの精が王子にささやく
「旅立て」と
夜空の星から降る金を探しに 知らない国へ
なりたいものになるため
星からの金を求め
ひとり 旅に出るのよ
「道は険しい」と王様は言った
「この城にともに留まるのだ」
「おまえを守るため 城を閉ざした」
王様は息子を愛していた
あこがれの精はもう一度王子に告げた
「旅立て」と
夜空の星から降る金を探しに 世界の果てへ
望むように生きるなら
星からの金を求め
ひとり 旅に出るのよ
愛とは 解き放つことよ
愛とは 離れてあげること
自分の幸せのためでなく
涙こらえ 伝えよう
夜空の星から降る金を探しに 知らない国へ
なりたいものになるため
星からの金を求め
ひとり 旅に出ていくのよ
険しい道を越えて
旅に出る